「中棚荘」は明治31年開湯、島崎藤村が足掛け7年に渡って親しんだ、由緒正しい一軒宿だ。
ほのかな硫黄臭のアルカリ性単純温泉の一部は、10月~5月頃にかけては、藤村の詩「初恋」の一節にちなんだ「初恋りんご風呂」になり、湯船には林檎が浮かぶ。
歩くのもやっとで投宿し、帰りには杖を忘れて帰った湯治客もいたという。
大正館(旧館)には藤村が逗留した部屋もあり、地産食材にこだわった食事も秀逸で、料金もリーズナブルだ。
敷地内に建つ「はりこし亭」は江戸時代の旧家を移築した食事処で、平成18年には「国の登録有形文化財」に指定された。
ここでいただく自慢の「おにかけそば」は、小諸地区に伝わる伝統食で、法事や宴席で、給仕に働く女達は食事さえもままならない・・・そんな女たちのために、大鍋に具を入れ汁をはり、手の空いた者から、銘々そばや、うどんを投じて食べる。
合理的な郷土料理だ。
↑「はりこし亭」のおにかけそば。料理人は料亭で修業の腕利き!
中棚荘(中棚温泉)DATA
温泉・味処 | 中棚荘・はりこし亭 |
住所 | 〒384-8558長野県小諸市古城中棚 |
電話 | TEL0267-22-1511/FAX0267-22-9191 |
交通 | しなの鉄道小諸駅からタクシーで5分 上信越自動車道小諸ICから4km(8分) |
地図 |
■『夕刊フジ』に好評連載の板倉あつし取材の「菜湯紀」を再編集したものです。